表
眠りから目覚めることによって、悪夢が始まる。矛盾してるようだけど、この表現に間違いはない。少なくとも、ボクが置かれている状況においては、妥当な表現だと断言できる。「おはようございます」 ベッドからゆっくりと身体を起こすと、柔らかい女性の声が投げかけられた。ぼんやりとする思考の中、反射的に顔をあげると、穏やかな笑みを浮かべた女の人がベッドの横に立っていた。ブルガリ 時計
「朝食は、いかがいたしますか？」 女の人が、侍女が丁寧な物腰で問いかけてくる。いらない、とボクは短く答えて、ベッドから下りた。「寝癖がついております」 侍女がボクの頭に手を伸ばしてくる。寝起きでぼんやりとしていたボクは拒否するのも億劫になって、何も言わず彼女の横を通り過ぎた。彼女の手が何もない空を切る。ブルガリ 指輪
うるさい。干渉するな。ボクは心の中で念じて、名も知らない侍女のもとを離れていく。 部屋から出ると、待機していた近衛兵が深々と頭を下げてくる。ご苦労様、とボクは機械的に労いの言葉をかけて、長い廊下を進んだ。 神。そう呼ばれる存在がある。生物なのか、有機物なのか、そもそも物質的なものなのか。あるいは、ただの概念かもしれない。ボクはそれを知覚したことがないからよくわからないけれど、そういう存在がある、とされている。その神の祝福を受けた神の子、と呼ばれる存在があって、それがボクだった。ブルガリ 時計
神の子は、平和をもたらす。遠い昔からそう言われていて、神の子として選ばれた時から、ボクには大きなお城と身の回りの世話をしてくれる女の人たち、そしてボクを守る男の人たちが与えられた。 平和。争いごとが起きないこと。じゃあ、争いってなんだろう。利益の奪い合いかな。でもそれって、生物ならば、起きて当然のことだとボクは思う。自身の利益を最大化するように考えられない種族というものは、遺伝子を残すことがとても困難だ。だから、生物として生きる上で、争いが起きないなんてありえない。生物は競争原理から逃れられない。ブルガリ 指輪
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